旅について

もともと建築をするつもりで大学に進んだわけでなかった入学当初の僕は日々バイトに明け暮れていた。その頃はと言えば、長期休暇を利用してバイト先や大学の友人たちと少し無茶だが目的地も決めず、気の向くままに旅に出るのが楽しかった。レンタカーを借りて北海道一周、青春18切符で東日本5日間鈍行列車の旅。バイト終わりで思いつき、そのまま次の日のバイトまで車を走らせたこともあった。その頃の旅の楽しみと言えば専ら各地の名所を巡ること、美味い食事にありつくこと、そしてその行程を楽しむことだった。

それが建築というものを知り、楽しさを覚え熱中するようになってからというもの、僕の旅が変わった。各地の建築を見て回るようになった。建築専門誌に登場する最新の建築を一目見ようと出かけるようになり、あるいはワークショップなどのついでに周辺にある著名な近代建築をはしごするようなことも増えた。遠路はるばる建築家の講演を聴きに出かけたこともあった。相変わらずの鈍行列車も車中では建築本を読み、本懐を遂げてからは(お目当ての建築を体験してからは)その建築のことを繰り返し考えた。もちろん食事も楽しむが、それはあくまでも脇役的な存在だった。

建築に目もくれることのなかった時代にはそこにどのような建物が建っていたかなんてほとんど記憶していない。もちろんガイドブックに載っているような名所は分かっているが、その当時近代建築など知る由もなく、後に「何故あそこまで行ったのにあの建築を見なかったのだろう」という後悔の念を覚えたこともある。だが建築に熱中している時代には、逆にその土地がどういった場所なのかを見ることができていなかったのかもしれない。「国道沿いの風景がどこも画一的だ」などと言いながら、本当にその土地の情報を仕入れることもせず、ただ目的地に向かって一目散。本当にその土地らしいと思えるルートではなく、効率的にたどり着けるルートを自ら選択していた。まあ、どっちもどっちだ。

現在はどうなのかと言えば、僕の旅っぷりもなかなか良い感じになってきたのではないかと思っている。建築を巡り、名所も巡り、美味しいものを食べ、旨い酒を呑む。温泉にも入る。多少バランスよく旅ができるようになってきた。などとまるで自分が成長できているかのように前向きに書いてはいるが、その実は昔のように無茶ができないとか、あまりガツガツ食べてはいけないとか、お酒が弱くなってきたとか、肩コリが酷いとか時間がないとか。つまりは年相応の楽しみ方というものをせざるを得なくなってきたという方が正しい。だけどそれはけして悪いことではなく、それこそが旅の楽しさなのだろうと思う。不思議なもので、たとえ同じ場所を訪れたとしても全く同じ印象を持つことは少ないように思う。昔はとにかく違うところに行きたがったが、最近では近くのお気に入りの場所を何度も訪れるということも知った。

3年間のMAT fukuokaを終えたとき、不思議なことに思い浮かんだ言葉が「旅」だった。お客さん自ら感じたことはそれぞれに異なるかもしれないがおそらく等身大の印象を持って帰って頂けたと思う。そして昨年実施したKidsMATは小さな子供たちにとってまさに大冒険だったかもしれない。福岡の街を心と記憶に刻み、成長してくれるはずだ。建築の事を語ることからスタートした活動も、年月を重ねるにつれて色んな楽しみ方ができるようになってくれると良い。そしてそれぞれのお気に入りの場所となって繰り返し訪れるようになってくれると嬉しい。そのような場所を目指して活動していきたいと考えている。

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