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大濠公園能楽堂

国立能楽堂も設計した大家の作品。平面は大小5つの正方形をずらしながら重ねるように配置されているため、入り口、ホワイエ、ギャラリーがずれながら連続する、奥行きある空間となっている。

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伝統的な平面配置

西日本シティ銀行本店は、世界的に著名な建築家・磯崎新氏によって設計されました。その重厚で独自性に溢れた表情は、博多駅という福岡の玄関口にふさわしい風格を備えています。ガラスのビルが多い現代都市のなかで、まるで巨大な赤い一枚岩のようにも見えるその圧倒的な存在感。外壁のインド砂岩能楽堂は能楽専門の公演場で、福岡城跡の外堀の一部を利用してつくられた水と緑の豊富な大濠公園の北側に位置します。見所棟を中心に東側に玄関棟、広間棟、西側に管理棟、楽屋棟を配置し、日本の伝統的な平面構成である雁行配置により建物が自然に入り込むような配置となっています。玄関広間に入ると三方が外部に対して開かれた広縁に囲まれ、節のないタイヒノキによる木軸構造が書院的な厳格さを漂わせ日本の「間」の空間を作り出しています。また、流麗な印象を与える屋根にも機能的な面よりも美的表現を重視した大江宏のこだわりが感じられます。独特の質感と色は、太陽の光や雨などによってその表情を変えます。発注者である当時の銀行頭取、四島司氏は、まだ30代だった若き磯崎氏に、「都市の彫刻」たりうる建築の設計を依頼したと言われています。

能楽堂の舞台は一般の劇場と大きく異なります。一般の劇場が絵画を額縁にはめ込んで鑑賞するような、あくまで視覚が一方向に限られているのに対し、能舞台は八方正面とも称すべき立体的な舞台・見所の構成です。同じ演目でも見る場所を変えることで、正面で能役者の衣装や能面を近くで観る、舞台の脇で橋掛かりの上からの役者の動きや横の動きに注目する、遠くから舞台全体を見渡すなど違った発見があるのが能舞台であり、能のおもしろいところでもあります。

雁行配置と空間演出

能楽堂の平面構成は、大小5つの正方形の建物を重なるように雁行配置することで、そのズレにより違う性格を持つ中庭を造りだしています。玄関棟から各棟は死角になっていて、直接見通せない不連続な空間になっています。玄関棟、大濠を一望できる広間、中庭を眺められる広縁、歩廊、舞台のある見所棟に向かって進むにつれて刻々と景色が移り変わってゆき、期待感や意識の高揚を演出しています。こういった空間演出法は日本独特のもので、神社の参道や回遊式庭園にも同様の手法が使われています。

重層する方形屋根

能楽堂の平面構成は、大小5つの正方形の建物を重なるように雁行配置することで、そのズレにより違う性格を持つ中庭を造りだしています。玄関棟から各棟は死角になっていて、直接見通せない不連続な空間になっています。玄関棟、大濠を一望できる広間、中庭を眺められる広縁、重層する屋根はこの建物の大きな特徴です。ひとつの大きな屋根を全体に架けようとすると、大きな力が作用してしまうため、部材が必要以上に大きなものになってしまいます。各棟ごとに異なる大きさの方形屋根を載せて力を分散させるのは、必要な機能に必要な空間を与えることができるからです。この屋根で工夫されているのが屋根の上部と先端で造りを変えていることです。この先端部分はフラットルーフと呼ばれる、傾斜のない平らな屋根の形状になっていて、雨じまいと同時に建物の印象を決める重要な要素となっています。、舞台のある見所棟に向かって進むにつれて刻々と景色が移り変わってゆき、期待感や意識の高揚を演出しています。こういった空間演出法は日本独特のもので、神社の参道や回遊式庭園にも同様の手法が使われています。

野外舞台の屋内化

安土・桃山期において完成されていた伝統的な野外での能舞台の空間を、近代建築の手法や技法を用いていかに屋内に表現するかが、能楽堂を計画するにあたり重要な建築的課題でした。その表現方法として、舞台に屋根がついていたり、手すりのある渡り廊下が伸びていたり、松ノ木が立っています。また舞台の背景となる鏡板に老松を描き、舞台の周りに白洲という日光を反射して舞台を照らすための白い石を敷いた場所をつくるなど、野外の能舞台を再現するための工夫が様々なところに見受けられます。

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野外を感じさせる空間デザイン

伝統的な能舞台の構成

能舞台は、本舞台、橋掛かり、後座、地謡座からなっており、本舞台の後ろに鏡板、前方にキザハシ(階)があります。この構成で最古のものは豊臣秀吉がつくらせた、能舞台で唯一国宝に指定されている、西本願寺の北能舞台です。中でも橋掛かりの長さと取り付き角度は、舞台・橋掛かり・鏡の間の三要素から成る舞台構成を決定する上で重要な基準値になります。なぜなら舞台を囲む見所空間はもちろん、外縁を取り囲む歩廊・広縁その他を含めた能楽堂空間全体の均衡・規模を決定するからです。

舞台上における4本柱の重要性

能舞台は、本舞台、橋掛かり、後座、地謡座からなっており、本舞台の後ろに鏡板、前方にキザハシ(階)があります。この構成で最古のものは豊臣本舞台には角(すみ)柱、ワキ柱、笛柱、シテ柱と呼ばれる四本の柱が立っています。これらは構造としても必要ですが、能を踊る役者にとっても重要な柱になっています。能面の穴は非常に小さく、面をかけると視野が極端に狭くなり、舞台の上で方向を定めることは容易ではありません。能は無駄をすべて剥ぎとった動きをしており、きょろきょろと周りを見ることはできません。そこで、役者は舞台の4本の柱の位置で自分の位置を確認して踊るのです。角柱はシテ(主役)の目印になるので目付柱とも呼ばれます。がつくらせた、能舞台で唯一国宝に指定されている、西本願寺の北能舞台です。中でも橋掛かりの長さと取り付き角度は、舞台・橋掛かり・鏡の間の三要素から成る舞台構成を決定する上で重要な基準値になります。なぜなら舞台を囲む見所空間はもちろん、外縁を取り囲む歩廊・広縁その他を含めた能楽堂空間全体の均衡・規模を決定するからです。

この世とあの世を結ぶ橋

橋掛かりは登場人物の出入り口として使われるだけではなく、ここでも重要な演技などが行われます。本舞台に対して直線的な距離や、物理的な奥行きを与えるので、橋掛かりのどこに立つかによって、シテ方は心理の綾や本舞台との関係を描きだします。多くの能において、面をつけるのは死者です。亡霊はあの世(鏡の間)からこの世(本舞台)にやってきて戦や恋の恨み・つらみを表し、生きている人間に魂の救済を求め、消えていきます。鏡の間と本舞台をつなぐ橋掛かりは、あの世とこの世を結ぶ道のようです。

分類:文化

竣工:1986年

設計者:大江宏建築事務所 (現 : 大江建築アトリエ)

所在地:福岡市中央区大濠公園1-5

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