福岡市美術館
微妙な色を反射するオリジナルのタイルで覆われたボリュームが、静かに緑に沈む端正な建築。公園から少しずつステップを上りながら散策する空間「エスプラナード」が特徴。
自然の中の建築/鑑賞のための空間
福岡市美術館は、ゆったりと水をたたえ市民の貴重な憩いの場となっている大濠公園と、市内でも有数の緑が存在する舞鶴公園というふたつの公園に囲まれた、とても恵まれた場所にたたずんでいます。この美術館では景色を取りこむ大きなガラスの開口部、2階と1階のエントランス・ロビーをつなげる伸び伸びとした吹抜け、円筒型の打放しコンクリートの天井の柔らかな表情など、周辺の豊かな自然を内部空間にいかすための様々な工夫が見られます。
2つの顔をもつ美術館
この美術館には2つの入口が存在します。美しい大濠公園を右に見ながら公園の北側から来訪する歩行者は、広くゆるい階段を巡るうちに、いつの間にか2階レベルに到着し、そこから美術館内へと入ることになります。こういう散策路をエスプラナードと呼びますが、設計者の前川國男氏が得意とした手法です。奥にすすむにつれ大濠公園が見えなくなり、かわりに彫刻が現れるよう設計されています。
一方、車やバスを利用して南側から来訪する人々は、2層分の高さを持つファサードに迎えられます。ロビーに入って内部の階段を上ると2階のエントランスロビーにたどり着きます。こうして2つの流れが2階で交わって、美術の海へと流れ込むようになっています。
大濠公園から福岡市美術館へのエスプラナード
美術館の表情を作る打込みタイル
一般的にタイルは構造体に後から張り付けられるものです。設計者の前川國男は、タイルをお化粧のように表面を覆うものとして扱うことを拒否しました。余分な装飾をなくし、構造体そのものを建物の仕上げとする事が近代建築の一つの理想だったからです。この美術館ではコンクリートとタイルを同時に施行する「打込みタイル」という特殊な工法が採用されています。タイルとコンクリートが一体になっているとも言えます。特別に焼かれた大判のタイルは、光によって微妙に色やつやが変わって見える、豊かな表情を持ち続けています。
打込みタイルの壁面
注意深く配置された4つの展示棟
福岡市美術館は床面積が14,000㎡をほこる大きな美術館です。その大部分を占める展示室を1つの場所にかためて配置してしまうと、大きなかたまりとなってしまい、周辺に対して圧迫感を与えかねません。そこで、4つの展示棟を分散して配置することでこの問題を解決しています。高さは15m以下とする制限を設けている地域ということもあり、建物周囲の木々よりも低く抑えられていて、周辺の環境に上手くなじんでいます。建物の全貌が目に入るというよりも、周囲のなかに少し埋もれるようなかたちで存在してます。