都市景観を魅力的にする川
英ロンドンのテムズ川、仏パリのセーヌ川、米ニューヨークのハドソン川—。世界中の大都市には「街の顔」といえる大きな川が流れています。これほどの大都市でなくとも、川は水運、取水—など、都市の発展に欠かせない重要な役割を常に担ってきました。
そして近代の土木技術の発達により、治水が進む中、川が持つ都市のアメニティや観光的な側面に光が当たるようになりました。都市景観と川の関係について、面白い例をいくつか引いてみましょう。
米テキサス州の町、サンアントニオは、リバーウォークで世界的に有名です。川沿いは花壇や樹木が美しく手入れされ、素敵なレストランやボートもあり、楽しく散策できます。
スペインの北部の都市、ビルバオは、米国人建築家のフランク・O・ゲーリー氏設計のグッケンハイム美術館の分館が1997年に完成し、一躍有名になりました。ユニークな造形を持つ美術館の背後にはネルビオン川が流れ、建物と川が一体となった景観が形成されています。この川には、スペインが生んだ構造家、サンティアゴ・カラトラバ氏設計の素晴らしく美しい歩道橋も架かっており、まさに川が街の主役となった感があります。
韓国・ソウルの清渓川は元々、下水の役割を果たしていた小さな川でした。高度成長期に暗渠となり、その上に高速道路が建設されました。その老朽化に伴い、市当局は補修・補強工事の代わりに撤去を決め、2003年からわずか2年間で親水空間を整備しました。長さ6kmにわたり、川辺散策を楽しくする様々なデザインが施され、歴史を学べる仕掛けもあります。パブリックアートも数多く設置され、さまざまな市民イベントで賑わっています。
東京は1964年の東京五輪に向け、都市インフラを急速に整備しました。その際、川の上に首都高速道路高架橋が建設された箇所が数多くあります。そのひとつが日本橋です。「こんなシンボリックな橋の上を高速道路の高架橋が覆っているのはよくない」と高速道路の移設や地下化が論議されたのは2006年です。その後しばらく話題にもなりませんでしたが、2020年の東京五輪に向けて再び都市整備をめぐる議論が活発化する中、日本橋の行方がどうなるのか、興味深いところです。
さて、福岡市の中心を流れる那珂川はどうでしょうか。福岡の都心を博多部と福岡部に二分する歴史的にも意味深い川です。その東側には歓楽街・中洲があり、川面にネオンが映り込む夜景は全国的に有名です。
とはいえ、残念ながら、都市デザインの観点から福岡の港湾・河川などの水辺空間はかねて「弱い」と言われてきました。これは市民や来訪者が水に親しめる魅力的な空間が少ないことを意味します。那珂川も護岸を整備したり、「福博みなとであい船」が運航したり—と工夫されてきたとはいえ、未だに観光スポットとまでは言えません。川の両岸に並ぶ建物も川に背を向けて建っているような印象を持ちます。
実はポテンシャルは十分あるのです。那珂川西岸にはクラッシックな佇まいの旧福岡県公会堂貴賓館を抱く天神中央公園があり、素晴らしい音響を誇る福岡シンフォニーホールを持つアクロス福岡もあります。東岸にも川の眺めを楽しめる清流公園があり、その背後には劇場を持つ複合施設、キャナルシティが控えています。自然と文化が両岸に存在しているのは強みだと言えます。
商業の街、福岡の特徴の一つは、博多駅と天神という二つの拠点があることです。それぞれが特徴あるエリアとして発展することが期待される一方で、二つをつなぐ工夫も都市戦略上重要だと言えます。その意味でも、那珂川をその一端を担う重要な存在だと位置づけ、より魅力的に整備していくべきでしょう。
(2014年3月20日 産経新聞掲載記事より転載)