建築を軸にしたロンドンの戦略

私たち建築家はどこを旅しても、見るべきものに事欠きません。建築がないところなどほとんどないからです。近現代建築であっても、歴史的建造物であっても、また土着の名もなき住宅であっても、それが生まれた社会背景があり、その地域で長年使われてきた建材や工法など学ぶことは尽きません。ですからせっかく休暇で旅行しても休暇にならないほどです。それでも学生時代からの憧れの建物の前にした時の感動はいくつになっても変わりません。

9月に訪れたロンドンは、何度も訪ねた街だということもあり、特に何かを見ようと思っていたわけではありませんでした。ところがそこで見せつけられたのは、建物単体というよりも、建築を巻き込んだ都市戦略のしたたかさでした。それを痛感させられた3つのプロジェクトをご紹介しましょう。

1つ目は、ロンドンの建築を紹介するツアーイベント「オープンハウス」です(写真:左)。9月後半の土日2日間しか行われませんが、この20年間で対象は20ヶ所から800ヶ所に増え、ロンドンでもっとも集客力のあるイベントの一つに成長しました。ニューヨークなど世界のいくつかの都市も、ロンドンに習って建築紹介ツアーを始めています。

すでにロンドンでは、一般の建物だけではなく、インフラ施設や首相官邸 (ダウニング街十番街) にまで広がっています。ロンドン市民はもちろん、海外からのビジターも幅広い世代が参加していツアー中の質問も活発です。去年まで参加者だった人が今年はガイドになっていることもあります。イベント規模が大きくなりすぎて統制が取れているとは言い難いものの、建築という切り口だけで、これほど大きなイベントが成立することには驚きを禁じ得ません。

2つ目は「タウンホール」。かつての市役所を改装し、その名を冠したホテルです。1910年代の古典的な空間に、現代的デザインをダイナミックに施しており、それほどよいロケーションでもないのに大人気。クラッシックとモダンが融合しているだけではありません。かつて執務室だったり、議事堂だった場所を、当時の装飾を残しつつモダンな客室に活用している様は新鮮であり、ユーモラスでさえあります。ちなみにこのホテルのオーナーはシンガーポールの企業だとか…。歴史を海外の投資で甦らせたプロジェクトだと言えるでしょう。

さて3つ目は仮設建物の話をしましょう。ロンドンの中心部のケンジントン公園の一角に「サーペンタイン・ギャラリー」という小さな美術館があり、その脇に毎年夏季限定で仮設のパビリオンが建てられます(写真:右)。美術館に来る人たちが憩う、ごく小さな半屋外の場なのですが、世界中から選ばれた優れた建築家に設計を託しているのです。規模からするとそれほど高価な建物ではないと思われますが、ロンドン市民だけでなく世界の人々が「今年は誰が選ばれるのか」「どんな建物が建つのか」と注目し、毎年多くの人々で賑わうのです。ちなみに過去14回のうち3回は日本人建築家が設計しました。

ご紹介したプロジェクトはどれも多額の税金や資金を投じたものでもありません。知恵を絞って過去の遺産を生かし、世界の耳目を集め、人を呼び込む場を作っているのです。日本の都市にとっても参考になる「したたかさ」ではないでしょうか。

(2013年11月28日 産経新聞掲載記事より転載)

(写真:松岡恭子)

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