もつ鍋と建築の話
もう30年近い昔の話ですが、今でも昨日のことのように覚えている風景があります。就職のため福岡にやってきた最初の日曜日、ようやく見つけた駐車場に車を停めて「岩田屋」という聞き慣れない名前のデパートの角を曲がったとき、写真の中だけでしか見たことのない立体が突然、実際のスケールを伴って僕の眼前に現れました。
正直なところ、それはかなり意表を突きました。もっと大きなボリュームを想像していた上層階が天井と空の中間のような存在として浮いていて、その存在の力にしばらく圧倒されて立っていました。最初、建築家のどういう心情がこの場を産み出したのだろうと怪しみ、やがてこのアイディアにたどり着いたときの感情を共有できたかのような錯覚を持ちました。
「福岡銀行本店」として記憶されるこの建築が僕に示した魅力の大きさは、その空間の力と同時に僕が多少なりとその建築に関する、またその設計者、黒川紀章氏に関する知識を持っていたことに拠るのでしょう。これは建築に関わる仕事をしている者の特権でしょうか?いいえ、当時の僕は知識と呼べるほどのものを持っていたわけではなく、興味に近い、ちょっとした情報と呼べる程度のものでした。それだけでも、大きな感情の高揚を体験できたのです。
もし誰とでもこの楽しさを共有できたら…という思いをずっと持ち続けていました。遅まきながら、ようやく実現のために必要なことを始めました。それが FAF です。
僕が思う「誰とでも」には幅広い年齢層、生まれ育った環境の違い等々が含まれています。そして、それぞれの人が感じていることはかなり違うのかも知れません。けれど共通した何かが、きっと含まれているのです。
それを僕らと一緒に探しに行きませんか?それはきっと楽しい共感体験です。
福岡銀行本店 / 黒川紀章