磯崎新氏の西日本シティ銀行本店

美術館、博物館、市庁舎、教会…旅先での楽しみは、美味しい食事やショッピングに加え、その都市を代表する街並みや建物を訪れることではないでしょうか。それらの前で撮影する写真は、旅のよい思い出になりますね。建築には文化的、歴史的背景がつきものですから、建物の解説文を読めばその街への学びも多いはずです。


日本では、古い民家や寺社仏閣はもちろん、明治から昭和初期に建った西洋建築も人気の観光スポットといえます。私の住む福岡市では、博多駅近くに寺社町があり、歴史を学べるまち歩きツアーがあります。戦前建築としては福岡市赤煉瓦文化館(福岡市中央区)が有名です。東京駅も設計した日本近代建築の父、佐賀・唐津出身の辰野金吾氏の設計です。


戦後の現代建築はどうでしょう。福岡市は商人の町でもあった歴史的背景が残っているのか、民間が建てる建物に勢いがあったと思います。その代表のひとつが西日本シティ銀行本店(福岡市博多区)でしょう。
福岡相互銀行本店として建てられたこの建物は、JR博多駅の博多口から広場に出ると左手に、威風堂々とたたずんでいます。設計者は大分県出身の建築家、磯崎新氏。日本の建築界はもちろん、世界中に知られた、まさに日本を代表する世界的建築家です。しかし設計に着手した1960年代末は、まだ30代の若さでした。
設計を依頼したのは当時の社長、四島司氏。絵画や彫刻など芸術に造詣が深いことで知られています。若き磯崎氏の可能性を感じ、銀行の大分支店の設計を依頼。その後、本店の設計を発注しました。「都市の彫刻を」という、スケールの大きな注文だったそうです。
そのシンボリックな外観は、一度見たら忘れられません。切りたつ力強い壁。宙に持ち上げられたかのように見える、正面の水平ボリューム。独特のテクスチャーを持つ外壁の石は、インドから運ばれたオレンジ色の砂岩です。建築に関わる人なら、写真をみただけで「福岡だ」と認識できる建物です。
室内空間も個性的です。1階の店舗は巨大な船倉を思わせます。上層階へのエントランスになるロビーの壁は、外壁の石とは対照的に、トラバーチンと呼ばれる光沢あるベージュの大理石で仕上げられています。天井は筒形を直行させてできる、交差ヴォールトと呼ばれる特徴的なかたちです。ヘンリー・ムーアの彫刻やアンゼルム・キーファーの絵画を鑑賞できるこの空間では、約30年間にわたり、毎月無料のコンサートが催されています。


以前このコラムで取り上げた福岡銀行本店と、西日本シティ銀行本店は、福岡の都市景観に大きく寄与してきた建物だと思います。福岡市は天神、博多と二つの中心を持っています。70年代の初めに民間企業が、市民のために音楽ホールやアートを取り入れながら、それぞれの地区に世界にふたつとない建物をつくりあげたことは誇らしいことです。戦後の復興期を経て、64年東京オリンピック、70年日本万国博覧会と、社会が大きく開き、伸びていった時代。その象徴として建築は人々に夢を与えたに違いなく、その存在が都市の軌跡と重なるのです。


私が理事長を務めるNPO法人福岡建築ファウンデーションでは、こうした優れた建物をもっと知ってもらおうと、建築マップをウェブサイトにオープンしました。福岡を代表する50の近現代建築を選定し、それぞれに簡潔な説明文を加え、繊細で美しいアイコンをひとつひとつ掲載しています。スマートフォンやタブレットがあれば、歩きながら建物を見て回るガイドになります。英語、中国語、韓国語にも対応しています。建築を通して福岡をより深く知っていただくツールとして、多くの方に利用していただきたいと願っています。

(2015年2月5日 産経新聞掲載より転載)

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