JR博多シティ
さまざまなイベントができる駅前広場、ドックランも併設する屋上公園など、公共空間と駅、商業施設を併せ持つ、超多機能な博多の玄関口。
JR博多シティは旧博多駅ビルの建替として九州新幹線全線開通に先立つ2011年3月に開業しました。駅施設を核に商業施設・映画館・ホールなどを備えた多機能複合型駅ビルとして、多くの来訪者のメインゲートとなっています。主要計画は、商業施設としての規模確保・平面的拡張と、まちづくりとして博多口と筑紫口をつなぐ動線の強化の二点が挙げられました。一点目は線路上部にも増築・高層化し、従前の約6倍である約20万㎡まで拡張したことで解決しました。二点目は新しいコンコースの増設による博多口・筑紫口をつなぐ動線や、都市計画による交通広場とペデストリアンデッキをつなぐ立体的な動線、地下街建設による既存地下街・地下鉄・周辺施設との回遊動線などが強化されました。また主要都市軸の大博通りや、商業軸である天神・キャナルシティ地区から続く博多駅前通りとJR博多シティとの関係を強化し、駅とまちがつながることを目指しています。
「和」をイメージした外観
JR博多シティの顔である外装デザインは、「和」を感じさせるすっきりとした縦格子を全体の基調としています。この縦格子は花崗岩打ち込みPCパネルという素材で作られており、彫りが深いために正面から見ると黒色、横から見ると白色と、角度によって様々な色の変化を楽しむことができます。また中央部分のファサードは、コンコースへの視認性を高めるためガラスのカーテンウォールとなっていますが、複層ガラスを使用することで、西側からの日差しによる熱を抑える効果があります。
特殊な架構が与えた回遊性
JR博多シティにはメガトラスという驚きの構造体が隠れています。大きな広場を確保するために、1階部分は短辺の幅が30mしかありません。しかしこれでは商業施設としては狭すぎるため、3階以上は巨大な斜材(トラス)によって両側に10mずつ空間を拡張し、多くの人々が自由に回遊できる幅50mの商業空間を実現しました。メガトラスが位置する3・4階の店舗では、ディスプレイへの活用やうまく隠すなどの工夫が見られます。
博多のまちとつながる駅ビル
交通拠点である駅ビル内には、各交通機関との連絡通路や改札が計画されています。3階はJR改札口に直結し、線路を眺めながら列車を待つことができる心地良い場所となっています。東西南北・上下すべての移動の核となるのは、1階の大きな吹抜空間とそこからつながる2階のペデストリアンデッキです。デッキは現在交通センターと直結していますが、今後は周辺施設まで延伸する計画があります。JR博多シティは建物ひとつだけで完結せず、まちと関係した駅ビルへ発展していくのです。
市民参加でつくられた壁画
新設された3階新改札口には、大樹の絵が描かれ、有田焼陶板で仕上げられた柱が林立しています。これは都会にいながら自然を感じられるスペースを皆の手でつくるというアート計画で実現しました。日本画家の千住博氏がはじめに幹や枝を描き、葉・鳥・花・魚・虫・星の絵を市民に公募して集め、有田焼陶板に焼いてつくられました。多くの市民が参加し、28525枚もの絵が寄せられました。陶板は3階新改札口だけで約10000枚あり、白色陶板も含めると建物全体で55000枚もの壁画となっています。
九州と縁の深い水戸岡デザイン
建物外観の象徴である大時計は、デザイナーの水戸岡鋭治氏がデザインしたものです。地上25mにかけられた直径6mもの大時計は、指針・文字盤の内部にLED照明を設けており、九州最大級のものとなっています。ガラスの外壁に設置しているために時計の裏側を見ることができる国内でもめずらしい構造です。時計の裏側はカフェとなっていて、オルセー美術館を参考にしてつくられたそうです。また、水戸岡氏はJR博多シティの屋上庭園、駅前広場やJR九州の車輌もデザインしています。
駅前広場のデザイン
駅ビルと合わせて改修された駅前広場にも博多ならではのデザインが施されています。博多地区の特産である博多織をイメージした舗装は、駅前通りの中心を示す縦の軸、駅ビルに向かう横の軸を起点に線の間隔が変化していきます。また広場にはヘンリー・ムーア氏の「着衣の横たわる母と子」像や、安永良徳氏の「博多節舞姿」像などたくさんのアート作品が置かれており、まるで美術館のような空間となっています。そしてJR博多シティのシンボルとも言える大屋根は、波のような緩やかなカーブが特徴です。デザインモチーフはベルリンのソニーセンターで、キールトラスという構造を用いて、表面に透過性の高い膜材を張ることで広場に十分な光を落としています。木の幹と枝のような柱は、広場のケヤキとの調和が図られています。5月にはどんたく舞台、7月には飾り山の展示など、博多のお祭りの中心地としての役割も担っています。
博多の夜を象徴する照明デザイン
最終電車まで多くの人が行き交う博多駅では、夜の表情も重要となります。広大な空間を均質ではなく広場のゾーンごとに適した陰影のある光環境を計画しています。タクシープールの庇に組み込まれた建築化照明や、一見ランダムに配置された床埋込型の照明は、無意識に動線を示し、スムーズな移動を促す視線誘導の効果を生み出しています。また美しいフォルムの街路灯は駅ビルのデザインとの調和を図り、柱体に組み込まれたアクアブルーの間接照明が海に近い駅を象徴します。駅の時間軸で変化する演出照明やオリジナルのLED照明器具など、先進の光技術を駆使した、低負荷で最大の効果をもたらす照明計画を実現するとともに、立体都市をコンセプトとした駅ビルからの多方向からのデザインアプローチと、駅とまちをつなぐ人の流れを表現した照明デザインで、新しい駅の賑わいとまちの魅力を表現しています。
エピソード —時間と空間とのたたかい—
新博多駅ビルを開発するにあたって、その工事には多くの困難が待ち受けていました。特に線路の上下に建物を構築していく作業は壮絶なものでした。1日1000本の運行列車を止めずに工事を進めなければならず、終電から始発までの6時間、準備や片付け等の時間を考慮すると実質わずか3・4時間と、実に限られた時間の中での作業でした。その間に全部で150本ある仮杭を1日に1本ずつ打ち込んでいきます。こうしてできた仮杭に工事桁を載せて線路を支え、線路下部の盛土を掘り、線路下の空間から上に向かって躯体を構築していきました。工事は列車が運行している時間にも続き、その間の作業可能な空間は、線路下の高さわずか50cmというところもありました。最も狭いところでは、部材間がたったの1cmしかないところもあり、これらの作業はすべて乗客の安全を確保しながら行うため、常に現場は緊張状態にありました。